はじめに

2017年04月30日

2016年10月に横浜シュタイナー学園卒業生の謙から連絡をもらった。記者という仕事に興味がある、進路相談に乗ってもらいたいという。『ルポ シュタイナー学校の1年』(時事通信社刊)という記事の連載で謙を取材したことがある。謙のクラスで「記者の仕事とは」と題して“授業”をさせてもらったこともある。

当時7年生(中学1年)だった謙は今、高校3年生。将来就きたい職業を目の前の問題として考え始めている。謙に会った。生真面目な少年はそのまま、世界に目を広げた好青年に成長していた。学園は今どうなっているのだろうか、シュタイナー教育を受けた子どもたちはどのように成長しているのか、と考えるようになった。

学園保護者の中島美穂さんからメールをいただいたのは、そんな矢先だった。
「学園広報の会ミーティングで、ぜひともあの続編をつくっていただきたいと話し合いました」

『ルポ…』は12年4月から13年3月までの1年間、通信社の記者として学園を取材し、教育誌に連載したものを、ブックレットとしてまとめた。充実した、楽しい1年だった。あれから4年が経つ。

学園からの依頼は記者冥利(みょうり)に尽きる。取材や書籍化の際の費用はクラウド・ファンディングで調達するという試みも面白いと思った。

今回は通信社の記者としてではなく、一ライターとして取材・執筆する。記事の発表場所は学園のホームページを提供していただくことになった。続編である以上、ルポルタージュの形式にこだわりたい。ルポである以上、事実に即して書くつもりだ。記者の職業倫理として譲れない一線である。その点は学園サイドにも了解してもらった。

インターネットの検索エンジンを使えば、あっという間にいろんなことを調べられる。人間の記憶のあり方が問い直されている。人工知能(AI)の発達により10年後には今ある職業の半分が消滅するという。

社会が大きく変貌する中、未来を担う子どもたちを育てる教育はどうあるべきなのか。日本の教育界では「アクティブ・ラーニング」という耳慣れない言葉が闊歩(かっぽ)し始めている。議論や発表を通じて主体的に学ぶ探求型学習だ。新学習指導要領に基づき、20年度から順次導入される。だが、それは既にシュタイナー学校で行われており、シュタイナー教育の十八番(おはこ)であることを4年前の取材で実感した。大阪府立大学の吉田敦彦副学長は「シュタイナー教育は公教育の水先案内役になり得る」と語った。

水先案内役。辞書にはこうある。
「多数の船舶が行き交う港や海峡、内海において、それらの環境に精通することが困難な外航船や内航船の船長を補助し、船舶を安全かつ効率的に導く専門家」

教育の水先案内役、パイロットに同行し、その取り組みを紹介できることは教育問題を取材してきた記者にとって望外の喜びである。横浜シュタイナー学園に再び乗船し、1年間の航海を始める。『続ルポ シュタイナー学校の1年』の船出だ。

著者・田幡秀之

※連載中、一部は仮名です。

田幡秀之 時事通信社記者
1991年時事通信社入社。高知支局、経済部、内外教育編集部などを経て2016年4月から金融市場部。
著書に『ルポ シュタイナー学校の1年〜学びを選ぶ 学びをつくる〜』、共著に『あなたの隣の外国人?虹はかかるか?』(いずれも時事通信オンデマンドブックレット)