第12話 春に向かう=卒業プロジェクト

2018年05月15日

卒業を直前に控えた3月初旬。横浜シュタイナー学園9年生の神田ひとみクラスは2日間にわたり、生徒それぞれが1年間研究してきた内容の発表に臨んだ。卒業プロジェクトだ。仲のいいひとみクラスはこれまで、何にでもクラス全員で取り組んできた。しかし、今回は全員で作り上げた8年生劇とは違う。テーマは、戦争、民族問題から宇宙、芸術までさまざま。進め方も一様ではない。一人ひとりの力が試される、ほぼ初めての体験だ。調べ学習のクラス内での発表とも異なり、在校生や教員、保護者ら約130人が発表を聞き、成長の瞬間に立ち会う。ひとみ先生はそれを「春に向かうための境域越え(イニシエーション)」と言う。5人の発表の様子をオムニバスで紹介しよう。

■エラー・エラー・エラー…

「いろんな種類の動力がある中で、これなら作れそうかなというものを作ってみました。実際は動かなかったんですけど…。中心の棒が少し曲がっていたりとか、重りが軽かったのかなと思います。失敗でした」

祐樹のテーマは「カラクリ」。父親の太郎さんの影響で、小さい頃からものづくりが好きな祐樹は、カラクリの歴史を調べ、実際に時計を制作してみた。失敗したのは、重りが落下するときの位置エネルギーを使った部品の一部。柱時計など日本の和時計に利用されている仕組みだ。
「これの前にも作っていたものがあって、紙の時計キットです。頑張ったんですけど、骨組みが少しでもずれると、歯車が柱にぶつかってなかなかうまく動かなくて…。動きませんでした。中が混み合ってるんですよね」

紙で苦労した祐樹は、木で歯車をつくってみた。
「しかし、法則とか調べずに適当につくったので、一応動くんですけど、止まっちゃうんですよね」

小さな学校である。祐樹のユーモアを知っている保護者は多い。約130人の聴衆を前に一人で30分近く話すことは、生徒たちにはプレッシャーだが、聴衆は発表を盛り上げる「応援団」でもある。完成度やできの善しあしは関係ない。とは言うものの、祐樹の失敗もここまで続くと、応援団も次の結果、失敗を予感する。予感が裏目に出ることを願いながら祐樹の次の制作物を待つことになる。歯車をスムーズに動かすため、棒に巻き付けた紐がらせん状に解ける時の曲線を利用したインボリュート歯車も失敗に終わった。祐樹の試行錯誤は続く。

時計には進む速さが異なる秒針、分針、時針がある。それぞれをどう動かすか。インターネットを使って調べることは禁じられている。図書館で借りた本から遊星歯車を見付けた。大小複数の歯車を組み合わせて、回転を減速、加速させる装置だ。歯車は木の板から円を切り出した。それぞれの針の速度を歯車の歯の数に変換して計算。糸鋸で歯を作り、歯車同士の噛み合わせが滑らかになるようにやすりで削った。それを約20個組み合わせ、時計を制作した。動力は振り子と連動させた重りだ。
「完成品がこれ。振り子が一番難しくて、なかなか動きづらかったんですが。すぐ止まってしまうんですけど、構造的には時針まで動くようになっています」

カラクリ時計に祐樹が重りを付けた。教室全体が緊張する。1、2、3、4、5。振り子が揺れ、それぞれの針が動いた。学園十日市場校舎の時を、祐樹の作ったカラクリ時計が確かに刻んだ。教室に拍手と喝采があふれた。発表本番、最後の最後での成功と、失敗を重ねても最後までやり通した祐樹への称賛だった。

「手仕事の力だね」
著者のそばにいた保護者がつぶやいた。一般の学校では家庭科に相当する科目だ。1年生から始まる毛糸の指編みは、棒針やかぎ針を使った編み物、刺しゅう、裁縫へと進む。制作物はどれも丈夫な実用品ばかりだ。卒業制作では全員がワイシャツを作りあげた。手仕事は、失敗したらほどいてやり直すことを繰り返しながら、最後までやり遂げる根気を養う。9年間、このクラスの手仕事を受け持った栁本瑞枝先生は、楽しそうに言う。
「1回説明して、やり方を見せると、『はい』と言って、言われた通りではなく、自分のやり方でトライする祐樹。その探究心と失敗してもめげない不屈の精神はさぞやこの後、大きなものを見いだしてくれるだろう、本当に宝物だ、と思います」