第7話 マイノリティ・リポート2037=学園の未来

2017年12月15日

2037年X月X日、とある公立小学校の教室。1人に1台のタブレット端末。子どもたちはディスプレーに表示された英作文の問題に黙々と取り組む。習熟度に応じ、問題の難易度も違う。英語は、国の学習指導要領改定により義務化された幼児教育でも必修科目になっている。スペルや文法が間違っていると、子どもに人気のキャラクターが“Just a minute.(ちょっと待って)”などと話し掛け、どこが間違いなのか気付かせる。ビッグデータに蓄積された会話パターンを使って、合成音声による正確な発音の英会話もこなす。教えるのは全てAI(人工知能)先生だ。教員は、「B君の手が止まっている」といったAI先生から送られてくる子どもたちの状況をチェックする。

AIやICT(情報通信技術)の導入に熱心な一部の学校で、2017年の今でも既に見られる授業風景だ。AIによる第4次産業革命が教育現場をも大きく揺さぶるメガチェンジの時代。オルタナティブ(代替)教育と位置付けられ、マイノリティ(少数派)である横浜シュタイナー学園は「20年後のありたい姿」を模索していた。

■弾き語りvsICT

2017年8月26日、東京・有明の武蔵野大学有明キャンパス。先進的な教育実践を紹介する「未来の先生展」が開かれた。20年度からの指導要領改定で、公教育の現場がもっとも対応に苦慮しているのが小学校の英語だ。英語に親しむ活動の開始が小学3年生に早められ、小学5年生からは正式な教科になる。教えるのは大半が担任教師だ。英語指導の教員免許を持っていない小学校教員が大多数という中で、注目されているのがAIやICTを使った授業だ。都内の小学校長は「教員は英語を覚えるより、電子黒板の操作方法を覚えた方が効率的」と言う。

先生展には、学園から英語専科の浜本マヤ先生と渡辺未穂子先生が参加し、学園での授業内容を紹介した。学園では、英語と中国語の2カ国語を1年生から教えている。詩を唱え、体を動かし、歌を歌い、絵を描き、体験する。いつもながらの学園の授業風景だ。

浜本先生は模擬授業で、ギターを弾きながらスコットランド民謡“Skye Boat Song”を歌った。王子を乗せた船が嵐に遭った。Big waves(大波)が立ち、Zigzag lightning(稲光)が走る。受講した25人に、歌を元に絵を描いてもらった。描いた絵からWとZが浮かび上がった。3年生のアルファベットの導入だ。「なぜ絵を描くところから始めるのか」という受講者からの質問に、浜本先生はこう答えた。
「文字は単なる抽象的な記号です。形と音とのつながりもほとんどありません。文字だけを覚えさせるのは小学3年生のありようと余りにかけ離れています。お話を聞いて具体的なイメージを絵に描く。その中に出てくる英語の言葉から文字が出てきます」
学園では、8年生の歴史の授業で産業革命を学ぶまではミシンを使わないなど、成長段階に合わせた学びと他の授業との連関が徹底している。

2人は、自分たちの授業を紹介し終えた後に、別の講座をいくつか受講した。いずれもICTを使った英語の授業の紹介だった。4人1組になり、それぞれが教室の4隅に置かれた紙片の「読書が好き」「音楽が好き」など、ある人物についての情報を読み込み、その情報を元に共同で人物像を浮かび上がらせるワークを行った。講座のテーマは「掴んで、離さず、その気にさせる」。浜本先生はその気になり、早速2学期の8年生の授業に採り入れた。

他のグループがまとめた人物像が分かるよう、前方のスクリーンには紙片の情報が表示された。ワークの間中、スクリーンでは人気タレントの写真が映し出され、スピーカーからは英語の歌が流れていたため、2人とも気が散った。学園ではデジタル機器を使うことはない。家庭でも特に低学年の間は、テレビなどに接することを制限している。AIやICTの導入は、習熟度に合わせた個別学習ができると期待されているが、このワークを紹介した教師が機器を利用した意図は、一斉授業で意欲やレベルがさまざまな子どもたちの関心を引き付けるための仕掛けに過ぎなかった。2人とも「電子機器は必要ない」と感じた。

「キーワードは体験」と、渡辺先生は思った。「どの講座もデジタル機器はあくまで補助として使われていたのが印象的でした。私たちと方法は違いますが、どの先生も目指していることは一緒。人は心が動かないと」