はじめはゆっくりと
土台となる喜びと信頼を培う
低学年におけるゆっくりとした授業の中では「学ぶ喜び」や「世界への信頼」など、数量でははかれない、またこの時期にしか培うことのできない大切な力が育まれます。
高学年になってくると、これらの力を土台にして子どもは飛躍的に高度で深い学習内容を自分のものにすることが可能になります。
子どもの心身の発達に注意深く目を向け、生涯携えていく生きる力の習得を支えることがシュタイナー教育の目指すところです。
シュタイナー学校での学びは、子どもの発達に沿うように学年が上がるに従って、より多岐にわたる高度な内容へと発展していきます。
教科同士が有機的に結び付けられているため、やがて子どもたちは全てが繋がり、全体を意味のあるものとして受け取りつつ、学びを深めていきます。
心の成長とともに、「自分」と「世界」との分離を強く意識するようになります。この時期に原初的な仕事(家づくり、稲作、畑仕事、職人の仕事)を仲間と体験することを通して、新たに世界とつながり地に足をつけて生きていく自信を獲得します。
暮らしと仕事の学びの一環として、酪農、畑作、稲作に続き、人が安心して暮らすための覆われた空間である「家」をクラスで協力して造ります。
身の回りの事物を、自分を出発点として広く捉え始めます。身近な町からより広い地域を学ぶ「郷土学」、自然界において人間により近い存在である動物の特性を学ぶ「動物学」を学びます。
川の流れや土地の変化に目を向け、実際に自分の足で歩いて確かめたあと、横浜の発展や当時の人々の想いや努力にも触れていきます。教室の中でのお話に加えて実際にその地を訪れることで、学びがより深く浸透していきます。
子ども時代において、心身ともに最も美しくバランスのとれた時期を迎えます。時間・空間に対する意識が広がり、そこから「古代史」・「地理」の授業が始まります。また、自然界においては「植物」に焦点をあてて学びます。
地理の学びはより広い範囲へと視野を広げます。自分たちの住む神奈川県の様々な特徴を学び、その一環で課外活動を行います。クラスにおいて初めての宿泊体験でもあり、仲間と寝起きを共にし、協力して取り組むことで絆も深まり、大きな喜びを得ます。
骨の成長とともに、均整のとれた体型が変化し、より重さを感じ始めます。意識においては、徐々に因果関係を理解できるようになり、それが、「物理」や「歴史」「鉱物学」などの学びに生かされます。
イメージ豊かに飛鳥奈良時代の歴史的な物事や人物について学んだ後、実際に飛鳥と奈良を訪れ、遺跡や歴史的建造物を巡ります。
思春期を迎え、自己の内面に深く問いかける内向性と未知の世界に強く関心を持つ外向性との両極の間で揺れ動きます。自然界における諸現象を「物理」「化学」「栄養学」などを通して多角的かつ包括的な方法で知ります。一方「世界史」では人々が未知の世界を発見し、膨大な見聞を広げていった大航海時代を学びます。
「鉱物学」で岩石とそれをつくる鉱物について学んだあと、6年生もしくは7年生で校外学習として「鉱物採集」を体験します。河原の砂をすすぐと現れる美しい鉱物のかけらに魅了され、雄大な大地の成り立ちに想いを馳せます。
骨や筋肉の発達が著しくなり、青年期の身体が育つなかで因果関係を把握した理論的な思考力が育ち始めます。自然界の諸現象をさらに深く理解する「化学」「物理」の他、「世界史」では現代社会の基盤となっている産業革命を中心とした近代史に触れます。第二・7年期における学びの集大成としてのクラス劇に取り組みます。
思春期の只中にいる8年生がクラスで大掛かりな劇づくりをします。自分以外の人物を演じるために、他者を理解しようとする姿勢が培われます。また、舞台美術、衣装、音楽などの裏方の仕事や広報を分担し、協力して行うことで独りよがりに偏りがちなこの時期の生徒たちの心を健全な形で外界に向ける助けになります、緊張しながらも演じていくうちに、舞台と客席との一体感を味わい、クラスとして、また個人として大きく成長する体験になります。
これまで育ててきた意志・感情を土台に、思考力を養う時期に入ります。これまでより一層、世界の真理・真実を追求しようと求め始める青年期の初めに、より客観的で視野の広い物事の見方や考え方を養います。農業実習では、人間が営んできた第一次産業を実際に体験します。
高等部一年目の実習として、第一次産業である農業について実践的に学びます、農家の協力を得て栽培、収穫から出荷に至るさまざまな仕事を経験します。
9年生はテーマを一つ決め、半年以上かけて取り組みます。卒業を目前にした3学期の終わりには、その取り組みの過程や成果を在校生や保護者の前で発表します。
専科授業には、「オイリュトミー」「英語」「中国語」「音楽」「美術」「書道」「手仕事」「運動遊び・体育(3年生)」「園芸」があります。
「オイリュトミー」とはギリシア語で「真善美のリズム」を意味します。シュタイナー学校での必修科目となっている身体芸術です。言葉や音楽の法則性を、身体を通して学び、繊細な質を感受する力を育みます。多人数で動くことにより空間感覚、社会性を養います。
大地から解放された二つの手を、人は自分のためだけではなく他者のためにも役立てます。自らの手によって作品を作り上げる喜びが、行為への意欲と思考の柔軟さの土台となります。できあがった作品の多くは実際の生活の中で大切に使われます。
1年生から「英語」と「中国語」の二か国語を学んでいます。異なる質の言葉に触れることで、母国語の質を再認識しつつ、多様な価値観や文化を受容する感性を育みます。
学園でのすべての授業がリズムや音楽で満たされていますが、「音楽」のカリキュラムでは、子どもたちの成長に合わせた音階や楽器を使用した授業を行います。たて笛としては、木製の笛を採用しています。笛によって呼吸を整えることと共に、楽器を繊細に扱うことを学びます。低学年では、自然の素材(木や石など)を楽器として使用し、キンダーハープやカンテレも使います。高学年では、主に弦楽器を中心とした合奏や混声合唱に取り組みます。
将来、ここで学んだ子ども一人ひとりが自ら創造的な人生を送る助けとして、多くの要素を相応しい年齢で体験できるように美術のカリキュラムは組まれています。
1年生から8年生では、主に色彩体験を「にじみ絵」という、特殊な技法を用いて行います。ここでは出来上がった作品よりも、子どもが紙の上に広がる色と向き合い心に響かせる体験そのものを重視しています。粘土を用いた立体制作は低学年から適宜行われ、6年生以降は、木材を削り、身近な道具やおもちゃを作る体験が加わります。6年生以上の学年では、「層技法」(水彩の技法)や、エポックの題材を視覚的に深める白黒デッサンや版画なども扱います。また9年生では、西洋美術史を学び、銅を叩いて器を作る、鍛金の技法を習います。
当学園では、3年生から4年間行います。筆に伝わる全身の力を意識し、体幹を感じることによって美しい姿勢で課題の文字を味わいながら一気に書きます。文字そのものが生き生きと書かれていることを大切にしています。技術的には、いわゆる筆法の基本を身に付けることが目的です。さらに、書道のもつ芸術性、伝統や歴史に触れ、将来にわたっても書に興味を持てることを目指します。
子どもの成長に即した運動を行います。歌や音楽に合わせて身体を動かすことを低学年で始め、中学年から徐々に身体の動きに意識を向けていきます。高学年では筋肉、骨の動きを考慮して陸上競技や器械体操を行います。子どもは身体を動かすことを心地よく感じ、身体を発達させていきます。
6、7年生の園芸では、季節の移り変わりを感じながら土づくりをし、苗を植え、木々を観察することを通して、身近な草花、作物はどのような土から育まれるのかを知ります。また、育て、世話をしてきた植物の成果を収穫し、食し、加工する体験もします。8年生になると、近隣の公園全体を保全する活動に移行します。
横浜シュタイナー学園では、四季の節目に行われる祝祭的な行事を、毎年全校一緒に祝います。
4つの大きな行事はいずれもキリスト教的な祝祭を基礎としていますが、これはある特定の宗教・宗派を教え込むためではありません。太陽の運行が作り出す季節と、それとともに移り変わる自然の様々な様子に目を留めるとき、人は自分を超えた存在を感じ、畏敬の念を抱きます。
第二・7年期にある子どもたちの心・感情を健全に成長させるためには、日々の生活の中で、四季の移り変わりに気づき、味わい、自然に対する畏敬の念が培われるようにすることが大切です。毎年季節の祝祭を繰り返し行うことは子どもの生命力を高めます。
日本の季節の行事も(七夕、節分など)生活の中で季節を感じる活動の一環として行っています。
暗く、冷たい冬の季節が終わり、太陽の光が強くなると、身の回りの自然が一斉に生命を花開かせる春が訪れます。「死と再生のテーマ」が根底を流れる祝祭です。横浜シュタイナー学園では、毎年全在校生・教員・保護者が新1年生を温かく迎え入れる春の祝いとして屋外で行います。
全員が芽吹いたばかりの木の周りで手をつないで回り、歌います。1年生は花壇や庭木の陰に隠された在校生の手作りのプレゼントを見つけます。最後にかわいい鳥の形をしたパンを、全員がいただきます。
夏至は太陽が一年で一番高く昇り、昼の時間が長い日です。この日の数日後が聖ヨハネの誕生日といわれる祝祭日です。子どもたちは河原で焚き火を囲み、歌い踊ります。
高く昇った太陽を模した輪を高く掲げ、子どもたちはその輪に太陽の子と名づけられた球をくぐらせるように放り投げて遊びます。そして、太陽の恵みにより出来たパンや野菜を皆で食べます。自然界の全てが外に向かって伸びゆく季節を明るく、楽しく祝います。聖ヨハネの果たした使命については、高学年になると教師によって語られることもあります。
1年の中で最も暗い季節だからこそ、心に光を灯し、聖なる夜(冬至の数日後)を厳粛な気持ちで待ち望む4週間を「アドヴェント」と呼びます。週ごとに、灯すろうそくを一つずつ増やしていくなかで、子どもたちは物語を聞き、音楽に耳を傾け、自らも歌ったり演奏したりします。校舎は手作りのローズウィンドウや星飾り、青い布で美しく飾られ、子どもたちは聖夜の訪れを待ちわびます。
クリスマスはすでに冬休みに入っていますが、毎年この頃全校児童・生徒が「生誕劇」を鑑賞します。
貧しいマリアとヨゼフが旅の末、馬小屋で幼子の誕生を迎えたその晩、心優しい素朴な羊飼いたちが、星に導かれて祝福に駆けつける物語です。暗く寒い冬、子どもたちは闇の世界に小さな光が生まれるイメージを深く体験します。