シュタイナー学校ができて100年経つ記念すべき2019年。先生方より「シュタイナー教育100年について思うこと」をお聞きしていくインタビューを行うことになりました。はじめにY100の担当教員である長井麻美先生にお話を聞きました。
「これからの社会を創るのは軍事力ではない、人間そのものだ。我々は、人間本質に合った教育方法で未来の社会を創造する力を持った子どもたちを育てるべきだ」という言葉でシュタイナー学校が始まりました。ー中略ーしかし今、人間存在に危機が訪れているという意味では、100年前の世界と似ているのではないでしょうか。機械化、合理化が著しく進み、「AIが人間を超えた」などと言われる時代であるからこそ、人間とは何かを問い直し、人が人を育てることの意味を考える必要があるのではないでしょうか?ニュースレター120号より
ーこのことをもう少し詳しく教えていただけますか?
100年前と時代背景は違っているけれど人間はどう生きるべきかという問いに向き合っているのはシュタイナー教育。今IT化が進み、AIなどが活躍すると人間がやることがなくなったとか人は職を失うとかいわれている。人間とはどういう存在かを問われているという意味では今の時代も同じだと思う。
ー近い将来、今ある職業の多くがなくなるといわれているけれども教師など人と人がかかわる仕事はなくならないとも聞きますが?
でも、最近タブレットとかね。学校に行けない子どもがインターネットを使って学ぶとか、もうこれから生身の教師がいらないのではないかとまで言われている。シュタイナー教育は人間だからこそ人間が人間を育てることが大事と終始一貫して言っている。学びの課程で子ども自身が自分で感じてみるしかないし、自分で体験してみるしかない。機械が発達しているからこそ、より人間が必要になっているのではと思う。
6期生の卒業プロジェクト(卒プロ)にもあったけれど人間らしさとは何かっていう問いに対して、「知性を身に着けた」とか「手先が器用になった」とか答え方はいろいろあるけれど、彼は「勇気があることだ」って言ったでしょう。まさにその通りで、人間が人間に教えられることって知識ではなくて勇気とか人を大事にする力とか乗り越えていく力だと思うんですよね。そんなのコンピューターで教えない。教えられない。コンピューターの問題解決プログラムが学べるとかいうけれど、それで人間強くなると思わない。だから今こそ100年前に言われた人間の本質を考えるシュタイナー教育が大事だと思う。
ー卒プロよかったですね。保護者として最後にいいもの見せてもらったなと思っています。
子どもたちの卒プロは準備していくうち日に日に変わっていった。発酵していくかのように。「ただ調べて発表すればいいわけではなくてその何十倍も何百倍も調べないといけないよ。それだからこそ中身のある内容になるんだからね」と伝えました。その結果か、質問されたらどうしようという子もいなかったし、終わった後でもっと質問してほしかったという声もありました。聴衆も温かくて表現してみて楽しかったようです。6期生は、8年生劇でもっと完全燃焼したかったという思いがあり、農業実習のよさをもっと伝えたかったのに月例祭では思いを客席に届けられなかったという悔しい思いがあった上での卒プロで、その後卒業オイリュトミーを全員でやりきった。9年生ならではのカリキュラムのよさがあり、そんな中で、自分たちで見つけるものがあってよかった。それこそふさわしい時期にふさわしいカリキュラムがあり、人間的な発達があったということだと思います。
ー現代の課題については?
では人間は何をすべきか?というと、自分に便利なものだけが発達していく、開発されていくけれど、未だに二酸化炭素を減らすこともできないし、花粉症はなくならないし、海洋のプラごみを減らすこともできない。目先の便利さだけで人間いいの?と疑問を持ち、そうではない方向性を持てる人間がこれから必要だと思う。
自分本位ではない、全体を見渡すようなグローバルな視点を持つ。自然の中で人間は生かされているという感覚をちゃんと持てる。頭だけでなく心でわかるような人間を育てる可能性があるのがやはりシュタイナー教育だし、それが大事な課題だと思う。
ー全体を見渡せる、グローバルな視点をもてるようになるのはシュタイナー教育のカリキュラムによるのですか?オイリュトミーでそういう感覚を得られるのでしょうか?
すべての教科で、です。大人になるときに自分が好き勝手にやったことの結果、地球の裏側の自然環境が壊れるというように思うこと、思い至れること、そういう想像力を育くんでいると思うんです。シュタイナーの人間観に基づいたカリキュラムや活動には、これからの人間はどう生きたらいいか、という本当のグローバルな視点が入っている。目に見えないものとのつながりを含めたものが自分と世界を繋げている。どんな仕事をしていても根底にその視点があれば、世界は変わっていくのだと思う。
ーそういうシュタイナー教育のすばらしさを保護者としても伝えて行きたいのですが。
究極的には日本で7つあるこういうシュタイナー学校を卒業した生徒たちが身をもって示していく。ちょいと体験した人がわかるものではない。授業をしている私にもわからない。シュタイナー学校を出たわけではないから。彼らはどんな人生を築いていくのだろうか・・・ (後半に続く)
(聞き手 Y100メンバー 4年生保護者 鈴木真奈美)