実は私も初め、そう伺ったときは????という思いでした。ところが、実際やってみると、それがとても良い効果があるということに気が付きました。
先ず目標がはっきりと明確でカリキュラムを考えやすいことです。10回の授業で何をしたいかがとてもはっきり見えてきます。
私は、筆で文字を書くことは子どもたちの体の成長に一役を担うと考えています。背筋を伸ばし、胸を広げて腕を動かす必要があるからです。そして安定した腕の動きをするためには丹田をしっかりさせなくてはなりません。丹田をしっかりさせて背筋を伸ばすことは体幹を鍛える一助となると考えています。
したがって、まずは姿勢をつくる。そして筆法を学ぶ。
さらにそれだけでなく、書道芸術の歴史や伝統、芸術性に触れるということが目標になります。
これらを各学年10回の中で学んでゆくわけですが、此処で10回を終えた後のお休みが子どもの中にとても良い効果があるようなのです。「醸す」という言葉を御存じでしょうか。まさに子どもの中で10回の体験がお休みの間に醸されて、次の始まりには考えていなかったような変化が現れるのです。これには、私も驚きました。シュタイナー教育ではエポック授業が特徴ですが、書道の時間もまさしくその通りなのでした。
10回の学びの中で、一人一人の子どもたちの中に少しずつ沈殿して積み重なってきたものが、お休みの間に新たな土壌になって次の種が撒かれるのを待っていてくれるような気がします。このようにして4年間の授業が終わります。本当はその先も続けたいと思っているのです。4年間で整った基礎の上にさらに論理的な学びができるようになるからです。
「書道を論理的に学ぶ?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思いますが、実に論理的だと私は思っています。そして私は論理的な書道が好きなのです。同じ字なのに、様々変化に富んだ線の書き方、様々な書風によって特徴的な字ができていきます。字の形はよく似ているけれど何か雰囲気が違うという先達の字があります。それは線の違いによって現れるのです。筆の微妙な角度の違い、筆運びの速度の違い、一人ひとりが違ったものをあみだしているのです。
そんなことも体験してもらいたくて、書道部では、一人ひとりにあった書風を探しながらそれぞれの学びを深めていきます。硬くてきりっとした字が得意な子、おおらかで懐の広い字だと本領を発揮する子、いろいろな書風をかき分けて見せていくのは大変ですが、私にもとても良い学びになっていますし、うまくいったときの気分は格別です。
子どもたちにもそういう体験をしてもらいたい、そして書道をして楽しかったという記憶が子どもたちの中に残って、いつかまた書道にめぐり合ってくれたら嬉しいなあといつも思っています。
学園の2期生のひとりが「書道は自由だから好きです」と言ってくれました。この言葉を聞いたとき「我が意を得たり」と思いました。彼の言った「書道は自由」という言葉はいつも私の支えになっています。
ここで、一つ付け加えさせていただきます。実は義務教育では書道ではなく書写をすることになっています。書写は国語の授業に位置付けられていて形の整った美しい字を書くことになっています。ここ横浜シュタイナー学園では、敢えて書道と言っています。書道は高等学校の芸術科目です。今までご説明してきたことでお分かりだろうと思いますが、学園の授業では書の中の芸術性に早くから触れてもらいます。そうすることが将来につながっていくと考えているのです。
さて、3年生になって心待ちにしてくれていた書道の時間、初めて筆を持った子どもたちは新鮮で素晴らしい線を書いてくれます。その線に一人ひとりの個性が光って見えます。
1回目は二本の線と点を二つ書いておしまいです。次の授業では二本の線で書ける字「人」を書きます。その「人」を少しずつ変化させて「大」と「天」を書き、さらに「天」から来るもの「雨」、雨が落ちる所「山」、そして始めに書いた「二本の線と二つの点でできていたのは実は「月」と進んで一年目は終わります。
この一年で感じた感動をもとに次つぎと学年を進めてゆけるようにと思って授業をしています。
(書道教員 吉野玉庸)
背筋を伸ばし、胸を広げて腕を動かす。整えられた「美しい形」にではなく、一人ひとりの感性が導く一つ一つの線にこそ、光る個性を見出す吉野先生の書道。子どもたちも毎時間楽しみにしている学園の書道の授業が、この秋、『体験授業』として公開されます。
あなたの筆はいったいどんな線をえがくでしょう
自分自身の線と向き合ってみたいと思いませんか?
どうぞふるってご参加ください!!
2022年9月24日(土) ※十日市場校舎にて開講(霧が丘校舎から変更となりました)
秋の学校体験講座「書道」 吉野玉庸先生